佐藤雅己先生へのインタビュー
皆さん、こんにちは、教育学科3年のうらこです。本日は、特別支援教育の講義を担当されている、教育学科の佐藤雅己先生にインタビューをさせていただきました。
写真:インタビューの様子
―本日は、宜しくお願い致します。早速ですが佐藤先生のご経歴を教えてください。
佐藤(以下敬称略):私は初めから特別支援の教員として勤めていたわけではなく、もともとは神奈川県立高校の英語科教員でした。高校教員として勤める中で、生徒指導の難しさに悩んでいた時期に、県総合教育センターの研修に参加しました。その研修で「教師を悩ませる困った子は、『困った子』ではなく、本当に困っているのは子ども自身なのだ」という考え方に出合い、非常に大きな衝撃を受けました。これが私の人生のターニングポイントであり、特別支援教育に関心を持ったきっかけです。その後、学びを積み重ねていくうちに、どのような背景のある子どもに対しても、その教育的ニーズに適切に対応できる教員になりたいと強く思うようになりました。そして、これまで縁のなかった特別支援学校への異動を希望しました。最終的には、特別支援学校2校で校長職を務め、2022年4月から教育学科で、特別支援教育について皆さんに教えています。
―私も佐藤先生の授業で、「困った子は、困っている子」というお話を聞き、衝撃を受けました。非常に大切な考え方であると思います。では次に、特別支援教育とはどのような教育なのか教えてください。
佐藤:文部科学省による厳密な定義もありますが、分かりやすく定義をするならば、「発達障害の疑いがある子どもも含め、障害のある子どもの教育的ニーズに対して、適切な指導や支援を行う教育」です。一方で、インクルーシブ教育とは「子どもは一人ひとり異なる」「同じ子どもはいない」という前提に立ち、「障害の有無にかかわらず、すべての子どもが同じ場でともに学ぶという理念や、そのための仕組み」を指します。すべての子どもに適切に対応するためには、まず障害のある子どもに対して適切な支援や教育が行われなければなりません。そのため、「特別支援教育はインクルーシブ教育に包み込まれる」という位置付けになります。
―実際に子ども一人ひとりに適切な対応を考えるときに、佐藤先生が大切にしていることは何かありますか。
佐藤:大切にしていることは、大きく2つあります。これは現在でも授業を行うときや、学生の皆さんと関わるときにも大切にしていることです。1つ目は、特別支援教育の授業でも扱う「氷山モデル」の考え方です。海面に見えている子どもの行動(氷山の一角)だけに捉われるのではなく、水面下に隠れている、子どもの行動の背景や要因(大きな氷の塊)にしっかりと目を向ける姿勢を忘れないようにしています。
2つ目は、指導が上手くいかなかった際の捉え方です。その原因を子どものせいにせず、「自分の指導や支援がまだ足りていないのではないか」と振り返るようにしています。「自分の指導が100点だ」と満足してしまったら、教師としての成長は止まってしまいます。そうなってしまえば、「子どもや学生と向き合う資格を失う」という覚悟をもって、今でも教師として仕事をしています。
―それでは、佐藤先生は今後特別支援教育がどのように変化していくとお考えですか。
佐藤:今後通常の学級には障害のある子どもだけでなく、外国に繋がりのある子ども、LGBTQ+、2E(二重に特別な才能やニーズを持つ子ども)など、より多様な背景を持つ子どもたちが在籍するようになります。それに伴い、特別支援教育は一部の特別なものではなくなっていくと考えます。更に、学校内での教職員の連携がより一層拡大し、学校・保護者・地域が一体となって多様な子どもたちを支える姿をイメージしています。
―なるほど。この変化を支えていく教師に求められる力とはどのようなものなのでしょうか。
佐藤:このような変化の中で、求められる教師の力は主に3つあると考えています。
1つ目は、「アセスメント力(状態把握力)」です。「氷山モデル」の考えに基づき、子どもの表面的な行動だけでなく、水面下の背景やニーズを正確に見極める力が不可欠です。
2つ目は「UDL(学びのユニバーサルデザイン)に基づいた授業設計力」です。算数で三角形の面積を求めるために、ノートに書いて考える、ICT教材で考える、図形を切って考える、このように子どもによって様々な考え方、学び方があります。ですから、子どもたちが自分の学び方を自ら選択し、互いに補い合いながら共に高め合える授業づくりが求められます。
3つ目は、「協働・調整力」です。異なる立場の人々と目標を共有し、一貫した支援を組織・実践していくための連携スキルが必要です。
―私も教員を目指す学生として、今から積極的に3つの力を身に付けていきたいと思うのですが、これらの力を付けるためには、今からどのようなことを学ぶべきだとお考えですか。
佐藤:1つ目は「学校に行こう!」です。ボランティアや実習などを通じて、実際の教育現場で多様な子どもたちの教育的ニーズに直接触れてください。
2つ目は「ICTツールに慣れておこう!」です。4~5月の学校現場は非常に多忙であり、着任後に時間をかけて操作を教えてもらえる余裕はほぼありません。今のうちにICTツールの操作の習得をしておくことを強く勧めます。
3つ目は、「UDL(学びのユニバーサルデザイン)の視点を持って指導案を書けるようにしておこう!」です。「口頭だけの指示で全員が理解できるのか」「板書が苦手な子どもはいないか」と常に自分に問いかけ、全員が分かる授業を目指しましょう。UDLの視点を持つということは非常に難しいことです。最初はその視点が持てるように意識することから始めてみてください。近い将来は、UDLに基づいた授業が教育のスタンダードになります。
―では、佐藤先生が感じた特別支援教育の魅力について教えてください。
佐藤:魅力の感じ方は人それぞれだと思いますが、私は「子どもが一万人いたら、一万通りの自立活動がある」という点に尽きると考えています。子どもの「困り感」を丁寧に分析し、一人ひとりに合わせた教材や支援を工夫する。その結果、子ども自身が「できた!」と笑顔になった瞬間の喜びは、何物にも代えがたいものがあります。正解が一つではないからこそ、個々の成長に深く寄り添えることが、この教育の最大の魅力です。
―ありがとうございます。最後に教員を目指す学生にメッセージをお願いいたします。
佐藤:皆さん一人ひとりの取り組みが、目の前のクラスを変え、学校を変え、やがては社会を変えていきます。社会を変えるのは、決して政治家だけではありません。教育という素晴らしい仕事を通して、ぜひ子どもたちと共に、社会をより良いものにしていってください。皆さんの挑戦を応援しています。
今回のインタビューを通して、特別支援教育やインクルーシブ教育の理解が深まったと同時に、教育そのものの在り方や、これから自分がどんなことを大切にしていくべきかを改めて考えるきっかけになりました。
今回の学びを大切にしながら、私も子ども一人ひとりに寄り添う教育について考えるとともに、教育実習などで実際に子どもと接しながら、実践的に学び続けていきたいと思います。
【教育学部 教育学科】
