2025年06月26日 (木)

学びの風景「初等教育学基礎演習①」―フィンランド在住アーティスト島塚絵里さんの特別講演―

初夏の香りがし始めた6月4日。1年生の初等教育学基礎演習①ピアッツァの授業に、北欧フィンランドから特別講師として、島塚絵里さんがお話をしに来てくださいました。島塚さんは、テキスタイルデザイナーとしても文筆家としても、そして、近年では絵本作家としてもワールドワイドに大活躍をしている大変人気のあるアーティストです。今回、ご縁があって、1年生のために、とても多忙で貴重な来日時間の合間をぬって、来校してくださいました。

実は、島塚さんは、本学で美術系の授業を担当している山成美穂准教授が若かりし頃、美術予備校でデッサンと油彩の講師をしていた時の教え子。島塚さんは当時、語学を学びたい気持ちと、アートを学びたい気持ちに悩み、進路に迷う高校生でしたが、悩んだ末に、語学を選んで美大ではなく津田塾大学の国際関係学科へ進学されました。その決断の際に、山成准教授に、「アートは何歳からでもはじめられる」と言われ、語学の道を選んでも、アートを学びたい夢も捨てることなく抱き続けていて大丈夫、二つの夢は別々の道ではなく、いずれは一つになることができるものなのだというインスピレーションを得て、紆余曲折はありながらも、自分を信じて、今の道へと進んで来られたそうです。

それから30年の時を経て、今度は、島塚さんが若い短大生に、地に足をつけながらも、叶えたい夢を大切にし、幸せな気持ちで人生を歩んでいくヒントを伝えてくれました。
短大生にとっては、とても勇気づけられる力強いエールとなった90分でした。

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島塚さんのお話を真剣に聞き入る学生達

島塚さんのお話は、彼女が13歳の時にフィンランドを訪れた際に、自分の世界が広がった思い出に始まり、高校時代の進路への真剣な悩みと迷いのこと、それから大学生になりアメリカに留学したこと、男女平等の職業として英語教員の道へ進んだこと、沖縄での教員生活から、美しい自然に触れ、やはりアートが学びたいという思いが強まったこと、たとえ人生が振り出しに戻るとしても、人生の原風景となっているフィンランドへ行ってアートを学ぼうと決断したこと、そのフィンランドの芸術大学でデザインを学び、国際的に有名なマリメッコ社に就職したこと、そこから独立し、フリーランスのデザイナーとしてさらに大きく羽ばたくに至ったこと、現在では、目まぐるしく変化していくデザインの仕事の他に、長く人に愛されるものを生み出したい気持ちから絵本制作にも取り組まれていること、人との出会いを大切にして生きることの大切さなど、とても中身の詰まったお話しでした。そのお話の中では、愛するパートナーとの出会いや、子育ての豊かさのお話もありました。

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美しいフィンランドの夕焼けと湖

島塚さんが、これまで歩いてこられた軌跡を、とても丁寧にお話ししてくださったその意図には、講演前のある学生からの質問がきっかけとなっていました。その質問は、「島塚さんはとても成功していらっしゃいますが、その影には多くの苦労や挫折もあったと想像します。どうやって乗り越えてこられたのですか?失敗することへの不安はなかったのでしょうか?」というものでした。この質問から、島塚さんは、どうやって、失敗を恐れる気持ちや、失敗につまづく気持ちから立ち上がり、夢を叶えるに至ったのかを、学生達に伝えたいと思われたそうです。一見停滞に見えた出来事でさえも、経験してきた全てに無駄なことはなく、全てのことが今につながっていることを伝えたかったと話されていました。

90分のお話は、質疑応答も含めあっという間でしたが、そのお話のなかから、島塚さんが教えてくれた、勇気の出る二つの言葉を、ここでは紹介したいと思います。この言葉は彼女の著書、「フィンランドが教えてくれた100の大切なこと」にも書かれている言葉ですが、自信を失いがちで、少し弱気なところがある短大生にとって、とても元気づけられる魔法の言葉でした。

ひとつは、Pikkuhiljaa(ピックヒーリヤー)という言葉。
「少しずつ」「少しずつ切りひらいていったらいいんだよ」という言葉です。

周囲が就職や結婚など安定していく中で、20代の終わりに大きな進路変換を決めた彼女が、焦りや不安に押しつぶされそうになったときに出会い、力をもらった言葉なのだそう。

もうひとつは、Kaikkijarjestyy(カイッキヤリエステュー)という言葉。
「すべてうまくいく。」「すべては、いずれうまく整っていく。」という言葉です。

フィンランドで、彼女が辛い思いをした時に、いつもお友達がかけてくれた言葉だそうです。焦る気持ち、辛い気持ちがあっても、目の前にあることを、できることからこなしていけば、ちょっとずつ改善していく。大丈夫なのだという自信を与えてくれたそうです。
暗く、冷たいフィンランドの長い冬を、幸せな心で生き抜く力を持った土地の言葉に支えられて、島塚さんは、たくさんのことを乗り越えてきたそうです。

そして、最後に、「しずかなところはどこにあるの?(岩波書店)」という島塚さんが挿絵を描かれているフィンランドの絵本の1ページを朗読してくださり、遠いフィンランドへの素敵な余韻を残して、講演会が終了となりました。

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絵本に登場する静かなところを愛する可愛いキツネさん♪

授業後の感想レポートには、島塚さんのチャレンジ精神と努力、明るさに、学生達が勇気をもらい、自分も一歩ずつ、しっかりとできることから努力を積み重ねていこうという強い気持ちをエンパワーされたことがびっしりと書かれていました。冬には実習を控えている学生達にとって、大きな刺激となったようです。

島塚さん、お話をしに来てくださり、本当にありがとうございました。

私たちも頑張っていくので、島塚さんもますますのご活躍をされますように。
お身体に気をつけて、どうぞお元気で!
学生、教員一同、日本から、ずっと応援しています!




【短期大学部初等教育学科】